高速アルゴリズムが生んだゼビウスもどき

ゼビウス周りの加筆部分です。「アルフォス」は厳密に言えばゼビウスの「移植」ではありませんが、後にPC-8801のゲームに影響を与えるプログラムテクニックを考案して作成されたという点が重要だと思います。

とにかく、アルフォスは「人気があった」と紹介されている割には文献などへの露出が少ないゲームという印象を受けます。今回公開できるのはこれだけの分量しかありませんが、それでも文献蒐集には数ヶ月掛ってしまいました。オセロや将棋のプログラムで名を馳せているせいか、どうしてもその方面ばかりが紹介されています。


日本におけるマイコンブームは高度なテクニックを持ったプログラマを多く産み出しました。前述の中村光一や堀井裕二がスポットライトを浴びることになった第1回ゲーム・ホビー・プログラムコンテスト。このコンテストへ「森田のバトルフィールド」を出品し、見事グランプリを獲得した森田和郎もそんな一人でした。森田は戦略的なゲームプログラムを得意とし、マイコンで作成したオセロゲームのプログラムを投稿して戦わせるというアスキー主催の大会「マイクロオセロリーグ」においては独自のプログラムテクニックを用いて挑戦をし、第3回目の大会では「13手読みするオセロ」のプログラムを見事に完成させ、優勝したほどでした。

森田は自らを「ゲームデザイナーではなく、ゲームプログラマー」と分析するように、どちらかと言えばテクニック先行タイプのプログラマで、おぼろげながら見えていた、新しいプログラムテクニックを用いれば、背景とこまごま移動するキャラクタを同時に画面へ描画できるのではないか、と考えていました。「森田のバトルフィールド」もマイコンゲームでは初となる画面スクロールを用いたウォーゲームでしたが、このテクニックをさらに進めた画面スクロール技術を使い「ゼビウス」に似たオリジナル作品をエニックスからの依頼で作成することになります。

アーケードゲームゼビウスのハードウェアに比べれば、正に貧弱とも言えるPC-8801というマイコンゼビウス移植するというのは「できないだろう」と考える人が多く、中でも背景を滑らかに高速スクロールさせることは「ムリだ」と言われていました。当初は森田自身もそのように考えていたといいます。しかし、森田は反骨心が強く、ムリと言われるとあえて挑戦したくなる気風の持ち主で、当時を振り返った雑誌のインタビューで森田は「ボクはプログラムテクニックで勝負するタイプなんです。できないと信じられているコトをしてみるのが趣味なんですね。だから、それが話題になったりしてウケたりすると嬉しいですね。」と語っている通り、不可能を可能にするということにあえて挑戦したのです。

ゼビウスのようなゲームを作成するに当たって、まず森田が重要だと捉えていたのはゼビウスの持っている「スピーディなゲーム進行」と「立体的なグラフィックス」という本質的な面でした。そして、それをプログラムし、表現するPC-8801というマイコンにおいて「そのスピードをどう再現するか」「8色のカラーで立体感のある画面をどう設計するか」という技術的な面からアプローチし、この4つの命題を解決するためだけに熟考し、その期間だけで3ヶ月を費やすことになります。そして完成した命題を解決するためのテクニックが「パレット機能を使ったキャラクタの重ね合わせ」*1でした。PC-8801が持つ、パレット機能とバンク切り換えを利用し、ブルーのバンクに背景、レッドとグリーンのバンクに空中物を描画して合成することで地上物に立体感を出しながらも、ゲーム進行のスピードを確保するということに成功したのでした。

解決策を思いついた森田は、それから僅か3ヶ月という期間でプログラミングを行い、「アルフォス」(1983/6, 森田和郎/ランダムハウス)を完成*2させました。アルフォスはゲーム中はBGMがなく、効果音のみしか鳴らないことが唯一の欠点でしたが、「パソコンの限界を超越したスクロールゲーム」というキャッチコピー通り、当時発売されていたどのゲームよりもスムーズにスクロールし、また、ゲームの内容も森田の意図どおり、ゼビウスが持つエッセンスをうまく引き出すことに成功していました。そのことから「あのゼビウスが家で遊べる!」という話題性を呼び、あっと言う間に高い人気となり、発売直後にログインのソフトウェアのランキングでは1位を獲得することになるのです。


■参考文献
こちらにまとめている最中です。

■関連エントリ
プレイ動画
「ゼビウス」の移植と言ったら「アルフォス」じゃないの?

*1:このテクニックを用いたのは森田氏が初であるとのこと

*2:ゲームはあまりにもゼビウスに似すぎているため、ゼビウスを発売したナムコから許諾を得た上で発売されました。ナムコからクレームがついたという話は聞いたことがありますが、そのような記述の文献は今のところありませんでした。